会長挨拶
2003年のビジット・ジャパン・キャンペーンの開始、2008年の観光庁の設置以来、インバウンド客の激増などの目に見える形での変化を受けて、観光に対する社会からの関心は著しく高まってきました。しかも、今世紀中にはほぼ確実に観光が世界最大の産業になるとの大方の見方も一般化し、経済的効果に対する期待もまた高まる一方です。
このように観光を取り巻く状況がいわば追い風を受ける中にあって、我が国の観光の現状を見ると特に学会が社会からの期待に十分に応えられていないという問題を見過ごすことはできません。その大きな原因の一つが、現在の観光が抱える諸問題への経営学的アプローチの不十分さに求めることができます。今、解決を求められている観光関係の諸課題のほとんどが経営問題であり、その意味で強く経営的なアプローチが求められているのに対し、観光関係の学会でこの分野に正面から取り組んできたとはいえない状況にあります。
私たち発起人の多くは10年以上も前から関西を中心にして「旅行ビジネス研究会」組織し、すでにその回数は100回を超えております。この研究会では大学の研究者を中心としつつも、旅行会社、航空会社、ホテル勤務者等の実務家が多くかかわってきたところに大きな特徴があります。研究会を重ねる過程で今後の観光産業の本格的な展開を考えた場合、よりすそ野の広い取り組み、とりわけ経営の視点を身に付けた人材の育成が必要であるという認識がますます深まってきました。
その間にも冒頭で述べたような状況が生まれ、我が国でも本格的な観光への取り組みが始まってまいりました。これに伴って観光庁や経済産業省などから、観光の本格的展開の前提としての人材育成の必要性が叫ばれ、われわれのメンバーの多くがその取り組みに関わってまいりました。その成果として、すでにいくつかの観光関連の大学院が設立され、高度な人材育成も始まってはおりますが、その一方で産業を支える圧倒的多数の中堅クラスの人材育成、あるいは幅広いすそ野をもつ観光産業の中小企業の経営力強化の必要性をより一層強く感じるようになりました。
このようなニーズにこたえる組織として今般、日本観光経営学会を立ち上げるに至りましたが、今後の展開と発展においては、研究者のみならず実務家との協働が不可欠であると考えております。どうか、この分野に関心をお持ちの研究者、もしくは観光産業を支えておられる実務家の皆様の幅広い結集をお願いし、そこから生まれる知的興奮を今後の観光の振興につなげてゆきたいと思っております。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。